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福岡地方裁判所 昭和38年(行)3号 判決 1964年4月07日

原告 中島菊代

被告 大川税務署長

訴訟代理人 樋口哲夫 外三名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

本件課税処分の取消しを求める訴の適否について

一、原告は、原告が本件審査請求棄却の決定を知つたのは、昭和三八年四月下旬であるから、本訴には出訴期間経過の違法はない旨主張する。しかしながら行政事件訴訟法第一四条に、処分又は裁決があつたことを知つた日とは、現実に処分または裁決があつたことを知つた日ばかりではなく、処分書が郵送されたような場合には、それが事実上知り得るような状態におかれたときをも指称するものと解するを相当とすべきところ、原告の福岡国税局長に対する審査請求棄却決定が昭和三八年一月一三日原告宅に送達されたことについては、当事者間に争がないので、特段の事情なき限り、原告は右送達のあつた日に審査請求棄却の決定があつたことを知つたものと認むべく、したがつて本訴の出訴期間はその日から起算せらるべきものというべきところ、本訴がその日から三ヶ月以上経過した昭和三八年六月一一日に提起せられたものであることは、記録上明白であるので、本訴は行政事件訴訟法第一四条第一項の三ヶ月の出訴期間を経過して提起された不適法な訴といわざるを得ない。原告は当時出産直前の身重な状態であり、産後の経過も悪く、入院加療を要するような異状な状態におかれていたから、本件裁決のあつたことを知らなかつた旨主張しているが、これに添う証人中島スエの証言および原告本人尋問の結果は、後記証拠と対比して、にわかに真実とは断じ難く、証人樋口三千人、角ミサヲの各証言を綜合すれば、原告は当時出産直前の身重な状態ではあつたが、特に入院加療を要するほどの異状はなく、原告の夫や母とも在宅していたことが認められるので、本件提起につき出訴期間経過の違法なしとする原告の前記主張は採用し難い。

二、次に原告は、本件審査請求棄却の決定通知には、出訴期間、出訴裁判所等何らの教示をしていないので、行政不服審査法第五七条第一項の規定する教示義務違反であり、したがつて本訴は行政事件訴訟法第一四条第一項に関係なく、被処分者が現実に出訴できることを知つた日より出訴期間が進行する旨主張している。しかしながら行政不服審査法第五七条第一項は、違法な行政処分の更正を可及的に行政庁内部において自から反省、再考せしめるため、被処分者に対し、不服申立をなし得る旨、不服申立期間並びに不服申立をなすべき行政庁を教示すべきことを規定したものであつて、裁判所に対する出訴期間、出訴すべき裁判所を教示すべき旨を定めたいものではないと解すべきであるから、原告の前記主張も採用し難い。

滞納処分としての差押処分の取消しを求める訴の適否について

原告が本件差押処分に対し国税通則法の定める不服申立の手続を経ていないことは、当事者間に争がないところ、原告は、差押処分の前提となる課税処分について不服申立の手続を経ており、課税処分そのものが取消されるとすれば、差押処分は当然その基礎を失うことになる故、差押処分について不服申立の手続を経ていなくとも、その取消しを求める本訴は適法である旨主張する。しかしながら課税処分と滞納処分とは別個独立の行政処分であり、国税通則法第八七条第一項により、滞納処分については課税処分とは別に不服申立の手続を経なければ出訴し得ない旨を定めているので、滞納処分としての差押処分につき何ら不服申立の手続を経ないでなされた本訴は、右同条、行政事件訴訟法第八条第一項但書の規定により、不適法として却下を免れない。

よつて本訴は、いずれも爾余の判決をまたず不適法としてこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 入江啓七郎 武田正彦 各越昭彦)

目録<省略>

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